Wednesday, June 21, 2006

トレハン護衛と、ゴタゴタ

今日は仕事を斡旋されて、トレハンの護衛に出かけた。流石に歴戦の冒険者が数人集まると古代竜や黒閣下を相手にしても何ら問題は無い。
こういう場で彼らの動きを見ておくと、今後の仕事の依頼を実行する際も色々と好都合だろうと思っている。何より仕事を実施する上で一番重要なのは、各人の力量を見極める事だ。


その後、折れ矢の上に戻って寝ようとしたところ、呼び止められた。

(音声を変えてお送りしております)

敢えて名前は秘するが、過日某国重鎮の方に武器の修理を依頼したのをある人物に咎められた訳だ。
何度も繰り返すが、俺は仕事をしない伝説鍛冶屋よりも、仕事をこなす熟練の鍛冶屋を愛したい。重鎮の方が重鎮の仕事をしている時は流石に俺も自重するが、お忍びで(供も連れずに民間の、しかも冒険者と言う余りタチの良くない連中の居座る)宿屋に現れて愚痴っている人物に対しては、堂々対等な人間として遇するつもりではあるし、そうする事が礼儀であろうと思ってさえいる。
王宮には王宮の礼儀があり、酒場には酒場の、戦場には戦場の礼儀がある。
俺は…例えロードブリティッシュが折れ矢に現れたとしても、普通に冒険者の一人として遇し、必要であれば酒を振舞い、必要であれば彼の助力を請うだろう。彼がそこがその様な場所だと知った上で来るならば、俺はその様な場所でそうあるべき対応を行う。
勿論彼の財力が天に届くであろう事も知っているし、武力は容易に俺自身を貫くだろう事も知っている。それでも尚、俺は彼の仕事に感謝し、手間賃を支払うだろう。1パーツ1000ぐらいなら喜んで出す。必要なら10000だって構わない!
無頼であろうとも友愛の情は忘れないし、友として遇する際の最低限の礼儀は弁えるつもりだ。
仮に、ではあるが。
もしも彼が武器の修理を不本意だ思うのであれば、断ればいい。他の人がどうこう言おうと、俺は本人の意思を重視する。
今ちょっと手を離せないとか、何かの理由があれば私も弁えるし、無理強いはしない。気が乗らぬとか言葉遣いが気に食わんといわれれば、献身の徳の顕現たる細工師や鍛冶屋が献身を忘れるとは! と嘆きつつ他を当るだろう。勿論宰相なのだから、下賤な冒険者の剣など叩けるかと言うのもありだろう。(相当ムカツクとは思うが)

しかし、彼は流石宰相の地位まで登りつめた男である。格安の(俺が呆れる位)修理代で修理を申し出てくれたし、俺の武器防具が耐久をほんのちょっぴり失った事を非常に悔いてくれた(こっちは別に気にしないし、むしろ俺が馴れぬ手つきで修理なんぞしたら耐久がガックン減ってしまうわけだ…純粋に「やはり鍛冶技術を持つものに頼んでよかった!」と思った。偽らざる本心である)
宰相としての力量は知らない。しかし彼の鍛冶の力量とその心は知った。真に自分の命とも言える武器防具を預けるに足る人物だと看破した! 恐らく余人には判らないだろうが、俺が本当に大切にしている自分の武器防具を預けると言う事は、その場で彼に武器を溶かされ、鎧を鋳潰されても一切の文句を言わぬと証左であり、俺が知る限り最大級の親愛の情を示す行動である。(普通だったらDeed作ってくれと頼むだろ)また、彼の鍛冶屋魂から類推するに、宰相としても実に献身的に働き、民草の事を思いやったであろう事も(推測だが)類推できる。

そりゃ、それなりの身分や肩書きを持つものがやるべき仕事や、行うべき言動もあるだろう。
それと同時に、それなりの身分や肩書きを持つ者が現れるべき場所と言うものもある。それを無視してどこででも「私はXXだ」と威張り腐る人間だったら、私は二度と仕事を依頼しないだろうし、話もしない。
そんなふざけた魂の持ち主には、俺の武器防具を預ける訳には行かない。
もしも宰相が宰相として現れる場として「折れ矢」があるのであれば、それは俺に似合わぬ場所と言う事になる。国の宰相が現れるのが当然の場所に、居も定めぬ放浪者であり、血縁すら断ち切った「背負わぬもの」が出入りしていいわけは無いだろう! 俺だって分際を知ると言う言葉ぐらいは知っている!
そこでは宰相は宰相として振舞うべきだと言うのであれば、まず俺ではなく彼に「その様なことを行うべきではありません」と具申し、彼を止めるべきではないのか? それすら恐れ多いと言うのか!
そもそも「こんな場所は貴方様のお越しになるべき場所ではありません」ぐらい言うべきだとさえ思う。


人々の思い方は自由だ。俺の言動に納得しないなら納得しないでも構わない。貴方が俺の言葉に納得しない権利を保有するように、この俺もまた他人の言葉に納得しない権利がある事をご了承頂きたい。自分だけが特権的に他人の意見を却下できるなどとは思わない事だ。
同様にして俺も彼らの言動に納得はしていないし、今後も「冒険者の宿」に現れる者に対してはこの俺と同じく一介の冒険者として対応する所存である。戦場で共に会い見えれば共闘も辞さないし場合によっては指示も出す。犯罪者だろうと何かの過ちを犯したものであろうと…冒険者として共に呑み、食い、仕事をこなす人間はこの俺にとって全て等価である。
一応、仕事斡旋してもらっている手前もあるので…今後あの気の良い、高い鍛冶の技術を持つ鍛冶屋に仕事を頼めないのは非常に残念なのだが…その部分は今後気をつけるようにしよう。これは純粋に仕事を取り巻くパワーバランスから行うことであり、俺は一切自分の言に問題があるとは思っていない。ある意味では仕事の斡旋者からの圧力に負けて私は渋々従うのだ!


実に良い腕だったし、何よりもその魂が鍛冶屋として素晴らしかった!
その技を二度と頼めないのは非常に残念な事なのだが!

できる事ならば、彼とは酒場ではなく一介の鍛冶屋と一介の冒険者として、コークスの匂い滾る鍜治場でお会いしたかった。なまじ肩書きを背負った為に、私とは遠い世界の存在になってしまったことが悔やまれる。

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